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ぎこちない空、あるいは抱擁。
くろきくん。
千秋は黒木君の前では意外に素直じゃないかと思う。
(だって変態の森の先輩なんでしょうし。)
千秋は黒木君の前では意外に素直じゃないかと思う。
(だって変態の森の先輩なんでしょうし。)
|ぎこちない空、あるいは抱擁。
「千秋、今日なんか怒ってる?」
楽器を片付けていると背中から、テオに忍び寄られ声をかけられた。手を止めて、指揮台の方を二人で向けば、彼はいつもより手荒に片付けをしている様にも、見える。
「うーん、リハ中はいつもと変わらない様に思えたけど。
言われてみれば。でも、」
続く言葉を待つテオは、指揮台の上に立つ彼と目を合わせないように、けれども視線をそらせないように。一挙一動を追っている。
「でも、あれは。怒っている、というより、少し落ち込んでる?」
あ、ほら。ため息。付け加えて言うと、テオは、ふぅん。と目を離さないまま言った。
「まぁ、分からないけど。今日は近寄らないでおこうかな。」
いつもの飄々とした足取りで、そう言い残しテオは事務所へと戻ってゆく。
片付けを再開しながら、彼の方にまた目を向けると。やや気怠そうに。指揮台から降りて袖に消える。
彼は事務所のソファに座り、楽譜を前にしても、何処かぼぉっとしているような、少しうつろに空をさまよう目と表情。
「千秋君、じゃぁ。」
声をかけると、やっとこちらに気づき、手を上げた。
アレは、怒ってるんじゃなくて。少しじゃなくて、大分落ち込んでいる?そんなことを考えながら、ふっと外を見れば、開け放たれた出入り口のドアの脇。見慣れたワンピースの裾。
「恵ちゃん?」
ドアの真横、外の壁に背中を付けて。膝を抱えてぺたりと座った彼女に声をかける。さっきの彼と同じ顔、少しうつろな表情をこちらに向ける。ただ、彼女の方が。少し泣きそうだったけど。
二人には申し訳ないけれど、なぜだかフッと力が抜けて小さく笑う。
詳しくは分からない、けれども結局、彼の理由は彼女だろうし。彼女の理由は彼だろうし。
「黒木く、」
彼女の言葉半ば、イタズラ心がふっと顔を出す。心なしか口元が上がってしまっている気がするのは、自分がこんな一役買って出るまねをするなんて、と客観的に少し自分が可笑しく思えたからで。
彼女に、手で待ってて、と合図を送る。座り込んで顔を上げたまま、不思議そうな彼女。まだ泣きそうな顔に、待ってて、と心でもう一度付け加える。
ちょっと大げさに足音をたてて事務所に戻る。
「千秋君、恵ちゃんが表で…」
言葉を続けようとしたら、彼が予想以上にもの凄い勢いでソファから立ち上がったから、思わず続きを飲んだ。
「のだめが?」
楽譜がバサッと膝から落ちている。それすら気にしていない彼に、少し驚いて。廊下の向こう、ドアを指差すと彼は一目散に事務所を飛び出る。
廊下で、ちょうど自分と並んで足が止まる。ドアの向こうにワンピースの裾を覗かせて、膝を抱えて座った彼女を見つけて。
「恵ちゃんが、表で待ってるよ?」
クスリ、と笑えば。彼のバツの悪そうな顔。頬が少し赤い。困ったような、呆れたような。団員や、友達にもあまり見せない珍しい表情だけど、きっと彼女にいつも見せているだろうと思う顔。
「悪いな、黒木君。気を使わせて。」
彼はそう言うと、また事務所に戻る。あれ?いいの?と声をかけたが、すぐに、あぁ。と。安堵の笑みがこぼれる。彼は先ほど膝から落とした楽譜を拾い、ソファにかけてあった上着と鞄を取ってやって来た。
「じゃぁ、また。」
上着に袖を通しながら、彼はまた手をあげる。自分も同様に、その仕草で挨拶を返して。ドアに向かう彼を目で追っていると、さっきと同じ、背中にテオの声。
「なんだぁ。ただの夫婦喧嘩か。」
ドアの向こう、しゃがみ込んだ彼とそばの彼女を見つけてテオは言う。やれやれ、と笑いながら事務所へと戻っていった。
顔を上げた彼女は、きっと泣いているだろう。きっと笑っているだろう。彼も頬が赤い。彼の手が彼女の頭をくしゃり、とひと撫で。それから腕ごと引き上げて彼女の手を取る。
ドアの向こう、手をつないで帰る二人の姿が小さくなって、暗くなり始めたパリの空に溶けた。
「千秋、今日なんか怒ってる?」
楽器を片付けていると背中から、テオに忍び寄られ声をかけられた。手を止めて、指揮台の方を二人で向けば、彼はいつもより手荒に片付けをしている様にも、見える。
「うーん、リハ中はいつもと変わらない様に思えたけど。
言われてみれば。でも、」
続く言葉を待つテオは、指揮台の上に立つ彼と目を合わせないように、けれども視線をそらせないように。一挙一動を追っている。
「でも、あれは。怒っている、というより、少し落ち込んでる?」
あ、ほら。ため息。付け加えて言うと、テオは、ふぅん。と目を離さないまま言った。
「まぁ、分からないけど。今日は近寄らないでおこうかな。」
いつもの飄々とした足取りで、そう言い残しテオは事務所へと戻ってゆく。
片付けを再開しながら、彼の方にまた目を向けると。やや気怠そうに。指揮台から降りて袖に消える。
彼は事務所のソファに座り、楽譜を前にしても、何処かぼぉっとしているような、少しうつろに空をさまよう目と表情。
「千秋君、じゃぁ。」
声をかけると、やっとこちらに気づき、手を上げた。
アレは、怒ってるんじゃなくて。少しじゃなくて、大分落ち込んでいる?そんなことを考えながら、ふっと外を見れば、開け放たれた出入り口のドアの脇。見慣れたワンピースの裾。
「恵ちゃん?」
ドアの真横、外の壁に背中を付けて。膝を抱えてぺたりと座った彼女に声をかける。さっきの彼と同じ顔、少しうつろな表情をこちらに向ける。ただ、彼女の方が。少し泣きそうだったけど。
二人には申し訳ないけれど、なぜだかフッと力が抜けて小さく笑う。
詳しくは分からない、けれども結局、彼の理由は彼女だろうし。彼女の理由は彼だろうし。
「黒木く、」
彼女の言葉半ば、イタズラ心がふっと顔を出す。心なしか口元が上がってしまっている気がするのは、自分がこんな一役買って出るまねをするなんて、と客観的に少し自分が可笑しく思えたからで。
彼女に、手で待ってて、と合図を送る。座り込んで顔を上げたまま、不思議そうな彼女。まだ泣きそうな顔に、待ってて、と心でもう一度付け加える。
ちょっと大げさに足音をたてて事務所に戻る。
「千秋君、恵ちゃんが表で…」
言葉を続けようとしたら、彼が予想以上にもの凄い勢いでソファから立ち上がったから、思わず続きを飲んだ。
「のだめが?」
楽譜がバサッと膝から落ちている。それすら気にしていない彼に、少し驚いて。廊下の向こう、ドアを指差すと彼は一目散に事務所を飛び出る。
廊下で、ちょうど自分と並んで足が止まる。ドアの向こうにワンピースの裾を覗かせて、膝を抱えて座った彼女を見つけて。
「恵ちゃんが、表で待ってるよ?」
クスリ、と笑えば。彼のバツの悪そうな顔。頬が少し赤い。困ったような、呆れたような。団員や、友達にもあまり見せない珍しい表情だけど、きっと彼女にいつも見せているだろうと思う顔。
「悪いな、黒木君。気を使わせて。」
彼はそう言うと、また事務所に戻る。あれ?いいの?と声をかけたが、すぐに、あぁ。と。安堵の笑みがこぼれる。彼は先ほど膝から落とした楽譜を拾い、ソファにかけてあった上着と鞄を取ってやって来た。
「じゃぁ、また。」
上着に袖を通しながら、彼はまた手をあげる。自分も同様に、その仕草で挨拶を返して。ドアに向かう彼を目で追っていると、さっきと同じ、背中にテオの声。
「なんだぁ。ただの夫婦喧嘩か。」
ドアの向こう、しゃがみ込んだ彼とそばの彼女を見つけてテオは言う。やれやれ、と笑いながら事務所へと戻っていった。
顔を上げた彼女は、きっと泣いているだろう。きっと笑っているだろう。彼も頬が赤い。彼の手が彼女の頭をくしゃり、とひと撫で。それから腕ごと引き上げて彼女の手を取る。
ドアの向こう、手をつないで帰る二人の姿が小さくなって、暗くなり始めたパリの空に溶けた。
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