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魔法使いの不肖の弟子は
大学時代。
のだめだって酷くもがいていたと思う。
のだめだって酷くもがいていたと思う。
|魔法使いの不肖の弟子は
裏軒の新しいメニューについてだとか、半月前に公開になっている劇場版プリごろ太だとか、先輩が帰る前に弾いていた曲だとか。そんな先輩の反応があったりなかったりするいつもの他愛無い話の延長で、お昼休みに峰君と真澄ちゃんと話していたことを話題にしようと思ったのだけれど。ふっと先輩の顔を見上げたら、ゆるく開いた唇から言葉は小さく、あ、とか、う、なんて間抜けに情けなく飛び出しただけで終わってしまった。
「何?買い忘れたものでもあった?」
先輩の右手に下げられたスーパーの袋は今晩の食材がぎっしり詰まっている。私は「お肉が食べたい」と言っただけ。けれども先輩は精肉売り場なんてほんの数分で済ませてしまって、パプリカにタマネギ、ズッキーニとブロッコリーに、先輩は何とかっていう名前を言っていたけど、グルグルした形のショートパスタ。それからトマト缶と、飲むのか料理に使うのか分からないけれど赤ワイン。レジの手前で思い出してローリエ。お会計の最中に、私がこっそりカゴに投げ入れたプリごろ太のお菓子に気づいた時だって、きちんとひと睨みくれたけれど、何も言わなかった。それらを手際よく収まりよく袋につめて、最後にカゴに残ったお菓子を私のレッスンバッグに放った。
先輩の頭の中はきっと、これから家に帰ってどういう手順で支度をしようかだなんて考えていて、私がさっき言いかけたことを言えば、食材達が脳みそで出番を待っていたところをいつもの仕様もない話に邪魔された、と怪訝な顔をするだろう。いや、もしかしたら今日は機嫌が良さそうだから、ちょっとは取り合ってくれるかもしれない。
「もし魔法が使えたら、親父がもう一人欲しいところだな。…なんだよその顔。違うぞ、まぁ聞けよ。親父がもう一人居たらな、長い休みとか、海外旅行でもパーッと連れてっいってやれるだろ?それに、もう一人の親父に店預けておくから大丈夫だって言ってやれるし。どうだ?このオレのナイスな魔法の使い道!」
「…、何よ。結局親父第一には変わりないじゃない。私だったらいっそのことずっと昔にタイムスリップしてみたいわ、ヴェルサイユとか本物と言わず、生でその時代を見てみたいもの。」
「ほぇー、いいですねぇ真澄ちゃん。生でベルバラ…のだめも見てみたいですー。でもタイムスリップしてもオスカルは居ませんよー? それに峰君も、峰パパに旅行っていっても結局自分も一緒に行くんでしょー?」
「別に私はベルバラが見たいわけじゃないのよ!…それで、あんたはどうなのよ?」
「…そうだよ、ひとの夢に突っ込む前にお前はなんだよ?まさか魔法で千秋の嫁になるとか言うんじゃねぇだろうな。」
「ムキャー。それもいいですねー!でも、えぇと。そうですねぇ。」
頭の中でぐるぐる、峰君と真澄ちゃんと十一月の真昼の白い太陽。可笑しい話でしょう?って話し始める筈だったけれど、思い出すうちに何も伝えられなくなってしまった。
「のだめは、」
その先は。今この場でだって言えない。先輩が、うん?と不思議そうに、けれどもとても柔らかい顔で覗き込む。言葉は先輩と目が合ったとたん、喉から胃の下の方迄逃げる様に落ちていった。
「なんでもない、です。」
「変なヤツ」
変なヤツでも何でもいい、本当はもっと意気地のないことを考えている。今日ばかりは嫌な子でいい。
先輩、もし私に魔法が使えたら。ヒコーキ乗れないの、治してあげます。それでヴィエラ先生にも逢わせてあげます。ヨーロッパでの生活と、それから先輩が常任指揮者のオケ。でも、どうしても、舞台のピアノや隣に私が居ることを想像することが出来ないんです。もしもの話をする時は幸せな未来でなければならないのに、もしもの話をしようとすると、ミルヒのやたら優しい顔が浮かんでは消える、ちぐはぐで苦しいばかり。
「やっぱり夜は冷えるな、お前バカなんだから風邪ひくなよ、オレは面倒みないからな。」
この話ごと封印してしまう弱ささえ、先輩はまるで見透かした様に優しく笑う。
夕方の凪いだ空気が先輩の左腕をただただ遊ばせている。私はいつだって隙をみては先輩の腕や手を捕まえに飛びつくのだけれど、今日ばかりはその手に触れることすら許されない気がした。
裏軒の新しいメニューについてだとか、半月前に公開になっている劇場版プリごろ太だとか、先輩が帰る前に弾いていた曲だとか。そんな先輩の反応があったりなかったりするいつもの他愛無い話の延長で、お昼休みに峰君と真澄ちゃんと話していたことを話題にしようと思ったのだけれど。ふっと先輩の顔を見上げたら、ゆるく開いた唇から言葉は小さく、あ、とか、う、なんて間抜けに情けなく飛び出しただけで終わってしまった。
「何?買い忘れたものでもあった?」
先輩の右手に下げられたスーパーの袋は今晩の食材がぎっしり詰まっている。私は「お肉が食べたい」と言っただけ。けれども先輩は精肉売り場なんてほんの数分で済ませてしまって、パプリカにタマネギ、ズッキーニとブロッコリーに、先輩は何とかっていう名前を言っていたけど、グルグルした形のショートパスタ。それからトマト缶と、飲むのか料理に使うのか分からないけれど赤ワイン。レジの手前で思い出してローリエ。お会計の最中に、私がこっそりカゴに投げ入れたプリごろ太のお菓子に気づいた時だって、きちんとひと睨みくれたけれど、何も言わなかった。それらを手際よく収まりよく袋につめて、最後にカゴに残ったお菓子を私のレッスンバッグに放った。
先輩の頭の中はきっと、これから家に帰ってどういう手順で支度をしようかだなんて考えていて、私がさっき言いかけたことを言えば、食材達が脳みそで出番を待っていたところをいつもの仕様もない話に邪魔された、と怪訝な顔をするだろう。いや、もしかしたら今日は機嫌が良さそうだから、ちょっとは取り合ってくれるかもしれない。
「もし魔法が使えたら、親父がもう一人欲しいところだな。…なんだよその顔。違うぞ、まぁ聞けよ。親父がもう一人居たらな、長い休みとか、海外旅行でもパーッと連れてっいってやれるだろ?それに、もう一人の親父に店預けておくから大丈夫だって言ってやれるし。どうだ?このオレのナイスな魔法の使い道!」
「…、何よ。結局親父第一には変わりないじゃない。私だったらいっそのことずっと昔にタイムスリップしてみたいわ、ヴェルサイユとか本物と言わず、生でその時代を見てみたいもの。」
「ほぇー、いいですねぇ真澄ちゃん。生でベルバラ…のだめも見てみたいですー。でもタイムスリップしてもオスカルは居ませんよー? それに峰君も、峰パパに旅行っていっても結局自分も一緒に行くんでしょー?」
「別に私はベルバラが見たいわけじゃないのよ!…それで、あんたはどうなのよ?」
「…そうだよ、ひとの夢に突っ込む前にお前はなんだよ?まさか魔法で千秋の嫁になるとか言うんじゃねぇだろうな。」
「ムキャー。それもいいですねー!でも、えぇと。そうですねぇ。」
頭の中でぐるぐる、峰君と真澄ちゃんと十一月の真昼の白い太陽。可笑しい話でしょう?って話し始める筈だったけれど、思い出すうちに何も伝えられなくなってしまった。
「のだめは、」
その先は。今この場でだって言えない。先輩が、うん?と不思議そうに、けれどもとても柔らかい顔で覗き込む。言葉は先輩と目が合ったとたん、喉から胃の下の方迄逃げる様に落ちていった。
「なんでもない、です。」
「変なヤツ」
変なヤツでも何でもいい、本当はもっと意気地のないことを考えている。今日ばかりは嫌な子でいい。
先輩、もし私に魔法が使えたら。ヒコーキ乗れないの、治してあげます。それでヴィエラ先生にも逢わせてあげます。ヨーロッパでの生活と、それから先輩が常任指揮者のオケ。でも、どうしても、舞台のピアノや隣に私が居ることを想像することが出来ないんです。もしもの話をする時は幸せな未来でなければならないのに、もしもの話をしようとすると、ミルヒのやたら優しい顔が浮かんでは消える、ちぐはぐで苦しいばかり。
「やっぱり夜は冷えるな、お前バカなんだから風邪ひくなよ、オレは面倒みないからな。」
この話ごと封印してしまう弱ささえ、先輩はまるで見透かした様に優しく笑う。
夕方の凪いだ空気が先輩の左腕をただただ遊ばせている。私はいつだって隙をみては先輩の腕や手を捕まえに飛びつくのだけれど、今日ばかりはその手に触れることすら許されない気がした。
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