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わずらひ
天才もたまには悩めばいい。


|わずらひ

どうしたものか、今日のオレはおかしい。いや、ここ最近はずっとおかしい。本当のことを言うと、いつからおかしくなったのか正直分からない。けどおかしいことだけは分かる。それは目に映る彼女が明らかに今までの彼女と違うからだ。
ワンピースの裾下からのぞく丸い膝やバレエシューズのバイカラーの踵のすぐ上のアキレス、ふわりと控えめなパフスリーブからほっそりと伸びた白い腕にトリミングレースの襟ぐりには白いうなじ、いつもの跳ねる髪も、頬張る頬とはちみつに光る唇も。全てが気になって仕方がない、目に留まってしまう。それは庭先の桜の蕾の膨らみに気づいたら日ごと妙にそわそわと春を追いかけているような気分。いつのまに、この目を患ってしまったのだろうかと考える。

ただ、余計におかしく思えることは彼女に対してのみ目を患ってしまったということだ。
ひと月前と同じブルックナーの楽譜は何ら変わりなく軽やかに五線譜に音符が踊っているし、クローゼットに並ぶシャツたちも肩線は美しく整列している。日本とパリと、彼女の奇行ですら何も思わず気にも留めずいなしていた自分は一体何処へ行ってしまったのか。一挙手一投足、どころではない。記憶の片隅でだらしなく笑う顔にすら、バカ、と呼びかけてしまっている。

「先輩?」
いつの間にやらピアノの前に居た彼女が眼前で不思議そうな顔を作っている。ソファのひじ掛けに腰を預けていたので、ちょうど頭一つ分彼女の方が目線が高い。見上げはしても彼女の造りはやっぱり華奢だ、と、瞬きひとつで揺れるまつ毛を追いかけながら思う。それからさっきまで鍵盤におかれていた長い指がやたらゆっくりと伸びてきて眉間をなぞった。
「相変わらず、すごい皺寄ってますよー。」
大きな手だと普段は思っているが、眉間をなぞる腕を掴めばその細さはすぐに実感できる。そしてつい、指の腹で肘の内側の皮膚を滑らせたくなってしまう。触れながら顔をあげるとどこか不安そうな表情。

「さっきのフォーレ、そんなにダメでしたか?」

フォーレもなにも、全て申し分ない。鍵盤を走る長い指十本、部屋の中でも軽やかな足音を立てて跳ねる様に駆け寄ってくる脚、いくら引き離そうとしたって、極めて強力な粘着力を誇る両腕。その両腕に捕まえられた時に感じることの出来る、柔らかな身体。気づいた時にはもう目の前にある、彼女の目と、鼻と、求められる唇とか。何も全て、申し分無く可愛らしい造りだろうかと思う。これはまさに目を患っているだけに違いない。

耳も正常、熱もないのに。なんて厄介な病気だろうかと思う。


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こちらは、の/だ/め/カン/ター/ビレを扱う二次創作のブログです。もちろん原作、出版社等いっさい関係ありません。

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