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靴に唄えば
靴の話も一本です。下とは別の靴の話。
|靴にまつわる・2
一歩、二歩と。少し遅れる彼女の様子を見ると、やたらアキレス腱のあたりを気にして何度か手でさする様な仕草を見せる。原因は分かっていた。さほどヒールが高いというわけではないが、やや硬めのエナメル、深いボルドー。まだ下ろして間もない新しい靴だった。
「痛いんなら履き替えれば?」
「ヤですよぅ。折角先輩が買ってくれたのに。それにもう2、3回履いて慣らせば靴も馴染むと思うんですよね。あ、先輩。お姫様抱っこでもしてくれます?」
困った顔からコロリといたずらっぽく笑ってみせる彼女に、誰がするか、バカ。と直ぐさまユーモアをつるりと滑らせて彼は返事を返す。その相変わらずの素っ気なさに、口を尖らせて冗談ですよう、と両足のつま先を揃えて立ち止まり頭ごと見下ろして靴を眺めてポツリと零した。それから彼女はジッと靴を見つめた後、今度は綻ぶようにゆっくりと笑って顔をあげた。
「だって、可愛いでしょ?」
つま先にあしらわれたレザーの細いリボンと浅いくりからは指の付け根が覗いて、彼女の甲の華奢さが余計際立って見えた。可愛い、というより綺麗だと思う。ぼんやりとそのようなことを思いながらも「そうは言っても、痛いものは痛いんだろ。」と彼女の靴を数歩先より一緒に眺めながら口にする。すると視界に差し出された彼女の左手。見ればさっきとは違ってずるい笑顔を向けられていて、彼女の思惑はすぐに汲まれた。片眉を上げて笑ってその手を受け取る。まるで都合の良い笑顔に抗うことは随分昔に手放したのだ。なにせ彼は靴より彼女の方をきちんと可愛いと思っている。そして素直に左腕に飛び込んで来た彼女に存分に左半身を貸してやった。
「もう大丈夫です。カフェ迄あと少しですし。お姫様抱っこ!なんて言いませんよー。可愛い靴履いて歩きたいんです。それに今日のワンピース、ステキでしょー?この前届いたんです。先輩のくれた靴にぴったりだと思って。」
一等可愛い顔で見上げてニコリと笑って言った。それは行き先がカフェではなくベッドであればそれこそ彼女を丸ごと抱えたくなるくらいだったが、あいにくパリの往来、石畳の上で彼は左腕を貸してやっていることで精一杯だった。けれどもギュウギュウと身を寄せる彼女にだって、いつもの「暑苦しい、」だとか「邪魔、」なんて文句ひとつもくれてやらなかった。しっかりと秋に向かっている空気に彼女の体温は心地よかったし、石畳に頼りなく足音が歌うのも放っておけなかったからだ。
「ところで先輩。ターニャに靴をプレゼントする男は信用ならない。って言われたんですけど。どう思います?」
そこで彼の左半身の愛しい重みは、裏切るような質問にずしりと感覚を一変させる。彼は一度彼女をひと睨みしてから浅くため息をついた。
「さぁ。お前はどう思うの?」
「えー?のだめですか?まぁ、のだめ男の人からプレゼント貰うなんて先輩くらいだし。でも先輩から靴のプレゼントっていうと何かムッツリな下心がありそうですよね。ぷぷ。でも信用ならなくはないです。信じてますから、先輩のこと。何があっても。のだめがお姫様抱っこー!って言ったら多分してくれる、とか?」
ふわりと頭を揺らして屈託なく笑う。全く、殴りたくなったり抱きしめたくなったり、コチラの感情を転ばすのに長けて迷惑な女だ、と思う。けれども結局行き着く先では可愛さに負けてしまうことは彼もよくよく分かっていた。きっとカフェで食事をとってる間もそんな会話を繰り返すだろうし、勿論帰り道も。
そして最後は彼女ご所望のお姫様抱っこでベッドに落ち着くことになっていたことに深夜に気づいたとしても、彼は諦めと安堵の狭間で心地よい眠りに就くこともよくよく分かっていた。
一歩、二歩と。少し遅れる彼女の様子を見ると、やたらアキレス腱のあたりを気にして何度か手でさする様な仕草を見せる。原因は分かっていた。さほどヒールが高いというわけではないが、やや硬めのエナメル、深いボルドー。まだ下ろして間もない新しい靴だった。
「痛いんなら履き替えれば?」
「ヤですよぅ。折角先輩が買ってくれたのに。それにもう2、3回履いて慣らせば靴も馴染むと思うんですよね。あ、先輩。お姫様抱っこでもしてくれます?」
困った顔からコロリといたずらっぽく笑ってみせる彼女に、誰がするか、バカ。と直ぐさまユーモアをつるりと滑らせて彼は返事を返す。その相変わらずの素っ気なさに、口を尖らせて冗談ですよう、と両足のつま先を揃えて立ち止まり頭ごと見下ろして靴を眺めてポツリと零した。それから彼女はジッと靴を見つめた後、今度は綻ぶようにゆっくりと笑って顔をあげた。
「だって、可愛いでしょ?」
つま先にあしらわれたレザーの細いリボンと浅いくりからは指の付け根が覗いて、彼女の甲の華奢さが余計際立って見えた。可愛い、というより綺麗だと思う。ぼんやりとそのようなことを思いながらも「そうは言っても、痛いものは痛いんだろ。」と彼女の靴を数歩先より一緒に眺めながら口にする。すると視界に差し出された彼女の左手。見ればさっきとは違ってずるい笑顔を向けられていて、彼女の思惑はすぐに汲まれた。片眉を上げて笑ってその手を受け取る。まるで都合の良い笑顔に抗うことは随分昔に手放したのだ。なにせ彼は靴より彼女の方をきちんと可愛いと思っている。そして素直に左腕に飛び込んで来た彼女に存分に左半身を貸してやった。
「もう大丈夫です。カフェ迄あと少しですし。お姫様抱っこ!なんて言いませんよー。可愛い靴履いて歩きたいんです。それに今日のワンピース、ステキでしょー?この前届いたんです。先輩のくれた靴にぴったりだと思って。」
一等可愛い顔で見上げてニコリと笑って言った。それは行き先がカフェではなくベッドであればそれこそ彼女を丸ごと抱えたくなるくらいだったが、あいにくパリの往来、石畳の上で彼は左腕を貸してやっていることで精一杯だった。けれどもギュウギュウと身を寄せる彼女にだって、いつもの「暑苦しい、」だとか「邪魔、」なんて文句ひとつもくれてやらなかった。しっかりと秋に向かっている空気に彼女の体温は心地よかったし、石畳に頼りなく足音が歌うのも放っておけなかったからだ。
「ところで先輩。ターニャに靴をプレゼントする男は信用ならない。って言われたんですけど。どう思います?」
そこで彼の左半身の愛しい重みは、裏切るような質問にずしりと感覚を一変させる。彼は一度彼女をひと睨みしてから浅くため息をついた。
「さぁ。お前はどう思うの?」
「えー?のだめですか?まぁ、のだめ男の人からプレゼント貰うなんて先輩くらいだし。でも先輩から靴のプレゼントっていうと何かムッツリな下心がありそうですよね。ぷぷ。でも信用ならなくはないです。信じてますから、先輩のこと。何があっても。のだめがお姫様抱っこー!って言ったら多分してくれる、とか?」
ふわりと頭を揺らして屈託なく笑う。全く、殴りたくなったり抱きしめたくなったり、コチラの感情を転ばすのに長けて迷惑な女だ、と思う。けれども結局行き着く先では可愛さに負けてしまうことは彼もよくよく分かっていた。きっとカフェで食事をとってる間もそんな会話を繰り返すだろうし、勿論帰り道も。
そして最後は彼女ご所望のお姫様抱っこでベッドに落ち着くことになっていたことに深夜に気づいたとしても、彼は諦めと安堵の狭間で心地よい眠りに就くこともよくよく分かっていた。
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