忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

彼らの不思議
テオと。

|彼らの不思議

「チアキ、奥さんと喧嘩したの?」
「はぁ?」

うちの指揮者のしかめっ面は見慣れたものだけれど、今日は特に酷い。ずっと奥歯がシクシクしているみたいに眉間にくっきり皺を刻み続けて丸一日だ。コンマスに変わった様子もなく、最近のオケにも特に問題は無さそうだから、彼の頭を悩ます人物に思い当たるのはあの可愛らしい女の子だけ。
「何で。」
珍しく否定しないし、そう見える理由を聞かれるということは肯定したも同然だろう。彼は自分が案外分かりやすい人物だということに特に自覚はないようで、さぁ、とそら惚けてみると。ことさら不機嫌な顔を作って「別に。」とライブラリにこもってしまった。

彼がこもって一時間、二時間、今日は別に残業を頼んでいる訳でもないのに。日本人が仕事熱心なのは素晴らしいと思うけど、こんな日はさっさと帰ってもらって構わないのに。でもまぁ、チアキの喧嘩は簡単に想像出来るけど、謝ったり仲直りするのは難しいなぁ、なんて噴き出してしまう。くつくつと一人笑ってしまっているところ、窓の外へひょっこり見慣れたボブヘアーが見えた。すとんとしたワンピースにフラットシューズ、二、三歩、右へ左へうろうろしては時折事務所の中をうかがう様にしている。
なんだ、やっぱりただの夫婦喧嘩じゃないか。

ノックをひとつ、もうひとつノックを足す前に扉が開いた。
「チアキ、事務所閉めるよ。」
「あぁ、出るよ。」
上着を腕に通し支度を整える彼の顔から眉間の皺はなくなっているけれど、どこか寂しそうに見えたのは彼の顔に丁度夕日がキレイに差し込んでいるからか。
「喧嘩の原因はチアキ?奥さん?」
「はぁ?」

あ、またしかめっ面。

「謝るんならさっさと謝っちゃったほうが楽だよー?どっちが悪いのか知らないけど、奥さんだってそんな顔してチアキが帰ってきたら仲直りできないよ?ほら、ごめんって先に言った方がいいって。」
「…、」
五月のパリの空が夕暮れから夜を迎え入れようとする頃、事務所を出ればすぐに口笛の音と見慣れたワンピース姿の彼女が壁に背を預けていることに彼も気がついた。
「奥さん、」
口笛は止んで、空と同じ色をしたワンピースを泳がせて彼女はどこか不安げに彼の様子をうかがっている。
「中で待ってたら良かったのに。」
鍵をかける為背を向けていたので、彼と彼女がどんな顔をしているのかは分からなかった。そして振り向くと、丁度彼が何か日本語で小さく言った。すると彼女はいつもみたいに口を尖らせてから、困った様に笑った。

「じゃぁチアキ、お疲れさま。」

二人の背中をしばし見送っていたけれど、日本語でわぁわぁと口うるさく彼が言葉を浴びせている様子しか伺えない。角を曲がる手前、ようやく彼女が彼の腕に飛び込んで二人の身体は重なった。ふむ、と首をひねって伸びをひとつしてからメトロを目指す。彼らのアムールはなんと慎ましく面倒なものだろう。

拍手

PR
| prev | top | next |
| 407 | 406 | 405 | 404 | 403 | 402 | 401 | 400 | 399 | 398 | 397 |
プロフィール
HN:
ぐぐ
性別:
非公開
自己紹介:
こちらは、の/だ/め/カン/ター/ビレを扱う二次創作のブログです。もちろん原作、出版社等いっさい関係ありません。

のだ/めだったり、それ以外だったり気の向くままです。気の向くまま描いたり書いたりです。
よろしくお願いします。
何かございましたら拍手等でお願い致します。

詳しくはこちらにも

お知らせはこちら
カレンダー
03 2026/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30
アクセス解析
忍者ブログ  [PR]