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ペトルーシュカに寄せて
コンクールの時のカオリさんの「神様、どうか」は泣けます。
|ペトルーシュカに寄せて
あの時、熱はもうなかったけれど身体全体、指先まで熱かったのに頭の中は零度以下、途切れ途切れになる音符を熱い指先だけが繋いでいた。鍵盤から手が離れた時の喪失感と虚ろな景色は思い出すと少し苦しい。今、こうして先輩と一緒にパリにいたって、あの時の胸がチリチリする感じは忘れることはないし、どこか大事に抱えているところだってある。だから先輩からピアノに誘われた時、嬉しかったのと切ないのが一緒くたにやってきたのには少し困って笑ってしまった。
「のだめを誘ってくれたのは先輩のくせに、いつまでそんな顔してるんです?」
本番前の指揮者の控え室に堂々とお邪魔して、難しい顔をして鏡に向かっている先輩に声をかけた。
「…なんか嫌な記憶が蘇るっていうか、お前だって忘れた訳じゃないだろあの時のコンクールのペトルーシュカ。」
「えぇー、今さら何言ってるんですか。それにあの時ののだめと今ののだめは違いますよ!」
右の襟足が少し跳ねているのを鏡越しに指差すと、先輩は襟元に差し込んだ指でゆっくりと首をさすってなで付ける。
「そりゃそうだけど、…でもお前、随分機嫌いいな?」
「えへー、だって今日ののだめは特等席ですよ!先輩の真ん前ー!今度は真澄ちゃんがのだめを羨む番です!」
「特等席って…」
背中から少し勢いをつけて抱きついてみれば、あぁ、また眉間の皺が深くなってしまった。けれども、すぐにいつもの諦めのため息をひとつ零したので、もう手も振りほどかれることはないだろう。
「相変わらず心配性ですねぇ。大丈夫ですよう。今日のピアノは蓋も無いし先輩もよく見えますー。はぅん、先輩に夢中で間違えちゃったらどうしましょー!」
「…はぁ、まぁいいからちゃんと弾け。別に心配してないから。」
鏡の中の先輩は少し顰めた顔の割に、まっすぐな目をしてこっちを見ている。そんな顔をされたらこっちが困ってしまう。いつだって先輩は私を崖から放り落としたり、急に羽根を植え付けて空まで飛ばしたり勝手だなんて思っている。ぎゅぅと腕の力を強めても、先輩はいやがる素振りだって見せない。早く先輩に幕間の小太鼓を鳴らして貰わないと私は有頂天になったままステージに上がってしまう、と思っていると漸く先輩は「痛い」と笑った。
これから、違う指揮者やオケとこの曲を弾くこともあるかもしれない、先輩はその度ハラハラするのかと思うと何だか可笑しくて小さく笑う。指揮台の上で先輩はそれに気づいて少し怪訝な顔をしてみせた。
今日ばかりは身体が熱い、あの時より熱がある気がする程に。目の前に指揮棒をふる先輩がいて、周りにはオケが居る。私はステージの上、ピアノを弾いている。
大丈夫、私のペトルーシュカは何度だって生き返って恋をするのだ。
あの時、熱はもうなかったけれど身体全体、指先まで熱かったのに頭の中は零度以下、途切れ途切れになる音符を熱い指先だけが繋いでいた。鍵盤から手が離れた時の喪失感と虚ろな景色は思い出すと少し苦しい。今、こうして先輩と一緒にパリにいたって、あの時の胸がチリチリする感じは忘れることはないし、どこか大事に抱えているところだってある。だから先輩からピアノに誘われた時、嬉しかったのと切ないのが一緒くたにやってきたのには少し困って笑ってしまった。
「のだめを誘ってくれたのは先輩のくせに、いつまでそんな顔してるんです?」
本番前の指揮者の控え室に堂々とお邪魔して、難しい顔をして鏡に向かっている先輩に声をかけた。
「…なんか嫌な記憶が蘇るっていうか、お前だって忘れた訳じゃないだろあの時のコンクールのペトルーシュカ。」
「えぇー、今さら何言ってるんですか。それにあの時ののだめと今ののだめは違いますよ!」
右の襟足が少し跳ねているのを鏡越しに指差すと、先輩は襟元に差し込んだ指でゆっくりと首をさすってなで付ける。
「そりゃそうだけど、…でもお前、随分機嫌いいな?」
「えへー、だって今日ののだめは特等席ですよ!先輩の真ん前ー!今度は真澄ちゃんがのだめを羨む番です!」
「特等席って…」
背中から少し勢いをつけて抱きついてみれば、あぁ、また眉間の皺が深くなってしまった。けれども、すぐにいつもの諦めのため息をひとつ零したので、もう手も振りほどかれることはないだろう。
「相変わらず心配性ですねぇ。大丈夫ですよう。今日のピアノは蓋も無いし先輩もよく見えますー。はぅん、先輩に夢中で間違えちゃったらどうしましょー!」
「…はぁ、まぁいいからちゃんと弾け。別に心配してないから。」
鏡の中の先輩は少し顰めた顔の割に、まっすぐな目をしてこっちを見ている。そんな顔をされたらこっちが困ってしまう。いつだって先輩は私を崖から放り落としたり、急に羽根を植え付けて空まで飛ばしたり勝手だなんて思っている。ぎゅぅと腕の力を強めても、先輩はいやがる素振りだって見せない。早く先輩に幕間の小太鼓を鳴らして貰わないと私は有頂天になったままステージに上がってしまう、と思っていると漸く先輩は「痛い」と笑った。
これから、違う指揮者やオケとこの曲を弾くこともあるかもしれない、先輩はその度ハラハラするのかと思うと何だか可笑しくて小さく笑う。指揮台の上で先輩はそれに気づいて少し怪訝な顔をしてみせた。
今日ばかりは身体が熱い、あの時より熱がある気がする程に。目の前に指揮棒をふる先輩がいて、周りにはオケが居る。私はステージの上、ピアノを弾いている。
大丈夫、私のペトルーシュカは何度だって生き返って恋をするのだ。
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