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シネ・マ・チネ
平日の映画館は至福

|シネ・マ・チネ

平日の午後の映画館といえば席もまばらで、半径1メートルは空席の真ん中でどこか落ち着かない様子の彼女を見ながら彼は珈琲を差し出した。「先輩と映画デートなんて!恋人同士みたいですー。あれ、先輩ポップコーンは?」なんて、薄暗い館内で少し声を落としながらも揚々と一息に、最後は口を尖らせていた彼女だけれど、映画が終わるとしゃくり上げる程涙を流していた。暗くてわからないけれど、目も相当赤いに違いない。映画は不治の病と恋愛を絡めた、お決まりの泣かせどころはしっかり押さえてあるという所謂感動物であったけれど、彼女の琴線を触れるどころか鷲掴みにするものがプリごろ太の映画以外にもあったものか、とどこか意外に彼は思っていた。明るさを取り戻した館内にはもう彼らしかいない。

「先輩、のだめが不治の病にかかって余命半年とか言われちゃったらどうします?スケジュール全部キャンセルしてずっとのだめの傍にいてくれますか?」
最後に恥ずかし気もなく音を立てて鼻をかみながら涙声で聞いた。はぁ、と彼は呆れついでに伸びをひとつしてから椅子から立ち上がる。
「ほら、行くぞ。スタッフが困ってるだろ。」
「むぅ。先輩には情緒や余韻てものが無いんですか!のだめはこんなに感動してるのに、映画を先輩とのだめに置き換えちゃったら涙が止まんないのに!」
文句を言いながらも彼の後をついて出る彼女、ロビーを抜けて外に出て顔を覗き込めば、やっぱり目が赤い。「もし」や「例えば」の場合の話の反応で愛情を計られることなんて彼には不本意なことだし、彼女から情緒を説かれるなんて全く気に入らない。よく見れば、目だけでなく鼻の頭も赤いのは、外の寒さ故か盛大に鼻をかんだせいかは分からなかったが、そこをギュッと摘んでやると、スイッチみたいにフギャといつもの奇声が漏れた。

「キャンセルなんか誰がするか。」
「ひどい!のだめは半年で死んじゃうのに!愛する妻が死んじゃうのに、ひどい夫です!どこまでもカズオ!」
つれない彼にいつもの定型の文句で応戦、勿論最後に「妻じゃないし」を付け加えられるところまでは彼らの雛形であったのだけれど。彼は白む息と言葉でその後を続けた。

「キャンセルしないから、全部聞きに来い。パリでもイタリアでも日本でも。世界中どこでも。」

キョトン、と彼女は目を瞬かせた。涙腺は緩みっぱなしのようで、再び鼻の奥がつんとして直ちに胸が詰まってゆく。機関銃の様に応戦してきた唇だけれど、言葉はうまく紡げない。

「大体お前が不治の病なんてかかるわけないだろ。超健康優良児のくせに。のだめが悲劇のヒロインなんて図々しいんだよ。放っといてもお前百歳くらい迄生きるんじゃない?まぁ、お前が死んだら骨くらい拾ってやるよ。」
当たりまえのように彼女の手を掴んでからコートのポケットに突っ込んで、当たりまえのようにたらたらと憎まれ口を続けている。けれども彼女はすっかり右手に絡まる暖かさの幸福に夢中だったので、都合の良い解釈だってそれは容易い。
「…ムキャー!先輩、のだめがおばぁちゃんになる迄ずっと一緒に居てくれるんですねー!のだめ、先輩にお骨拾ってもらいたいですー!」

はぁ、と彼の吐いた息は白い。それから足を止めて彼女を見れば、きっとこれは映画の余韻のせいだと思わずにはいられないほどに、まだ少し赤い目をして笑っている彼女がどこか堪らず愛しく見えた。

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こちらは、の/だ/め/カン/ター/ビレを扱う二次創作のブログです。もちろん原作、出版社等いっさい関係ありません。

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