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幸福を思う
こっ恥ずかしいなぁシリーズ

|幸福を思う

私は昨日からうまく喋れない。先輩と一緒に居て何時間になるだろう、その間に口にした言葉はいくつだっただろう。頭と心の中では数百の言葉が順番を待っていて、口の中へやってきてはオドオドと喉の奥へ帰って行くようだった。さて、先輩に最後に言った言葉は何だったんだろう、と思い返すに、いつもの、「好きです」だった気がするのだけれど。そしてその前の言葉も「好きです」だった気がする。多分、その前もその前も。合間にひょっこりいつもの奇声を挟んでしまったかもしれないけど、バカの一つ覚えみたいに、それしか口にしなかったし出来なかった。なぜなら頭の中もそれでいっぱいだったからだ。
シーツに包まって、遠くキッチンの音を聞きながらギュッと目を瞑る。バカのひとつ覚えみたい、もう一度そう思うと、全くもってそう。私は先輩と出会ってからというものの「好きです」しか口にしてないのではないかと困ってしまった。昨日は確かにピアノ譜を前に先輩のアナリゼの時間だったはずなのに。いや、本当は楽譜を開いた時からアナリゼなんてちっとも頭に入っていなかった。楽譜を覗き込む先輩のつむじや、首筋、鉛筆と煙草を転がす右手、の親指の爪の形。それらで頭がいっぱいだった。おそらくうっかりいつもみたいに「好きです」なんて口にしていたのだけれど、いつもと違っていたのは先輩の方だった。アナリゼの最中にそんなことを言えば頓珍漢だと拳骨を貰ったり、授業の強制終了でもなるところが、昨日の先輩は困ったように笑った。それから「うん、」と言った。私は肯定されたと思った。

触ることも触られることも、服を脱ぐことも一緒に眠ることも待ち望んでいたけれどおっかなくもあった。目に映る先輩の身体や耳元の声や与えてくれる息を、もっともっと、と思っていながら、どう伝えていいか分からなかったからやっぱり「好きです」しか言ってないのだろう。昨日の夜から、夜中、今朝迄。出会ってから今迄。コンロを切る音、プレートとテーブルのぶつかる音が聞こえると、まぁ、それでもいいか、と思い始めた。私がうまく喋れない間、先輩は穏やかに笑っていたからだ。

「まだ痛い?」
先輩にしては珍しい殊勝な声がてっぺんから降ってくる。指揮棒を振る以外に、この人は容易く私にも魔法をかけてしまえる。その右手に梳かれた髪は心地よいどころではない。伺う様に見上げると、どこかもの思わしげな顔。私が笑うと先輩も笑う。それから半身を起こしてガウンをたぐり寄せると「メシ、出来てるから」そう口にして小さく赤く狼狽してみせてキッチンへと急ぐ様に帰っていってしまった。いつだって全てが余裕の先輩のくせに、脱ぐより着る方が照れるらしい、何だかふき出してしまった。


そしてテーブルにつくとタマネギのスープ。まだ「おはよう」も何も言っていないのに、口を開くと、やっぱり「好きです、」しか出てこなさそうだった。


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