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めぐる光とひかりの子
少し未来の。
|めぐる光とひかりの子
午後からの彼女とのリハーサルの前、少し早目の時間。ホールの扉が開いて外の光を連れて訪れた二人は珍しい組み合わせ、というわけではないのだけれど。こうして改めてつがいで訪問されると、さて、と冷やかさずにはいられなくなる。
「のだめちゃんの付き添い?心配症な夫だねぇ、」
オケに少し早目の休憩を伝えると、会場に現れた今回のソリストに気づいた団員達がにわかに活気づいた。当の彼女本人は、無邪気にピアノの元へ駆けってゆく。
「そんなんじゃないですよ。弟子が師匠の元を訪ねてるだけじゃないですか。」
相変わらずの素っ気ない返事、けれども何だか穏やかな顔をして言うので、余計にやり込めたくなってしまう。
「ジェラシーですか?」
「はぁ?一体誰に嫉妬?まさかあなたにとか言うんじゃないでしょうね、」
すぐムキになって、ほら、と思ったところへ聞こえてきた彼女のピアノ。確かめるように一音、頷いてから和音。ステージを見れば団員は椅子から離れず彼女の音を待っている。ピアノの音に一気に吸い込まれるように、私たちも言葉を噤む。ホールに軽快な音符だけが飛び跳ねているところへ、彼は少し面倒臭そうな表情を作って言った。
「でも、たまに、分かんなくなる時もありますよ。あいつの才能に嫉妬してんのか恋愛感情か、って。何でオレが、って思いますけど。」
「はは、まだまだ若いね。」
「何とでも。」
さっきよりもうんと穏やかな表情に変わって、不器用ながら嫉妬だとか恋愛感情だとかを認める純朴さを、彼は一体どこで身につけてきたのだろう。ピアノの調子を確かめるには十分すぎるほど楽しんで弾いている彼女を慈悲の視線で抱擁している。
軽やかに鍵盤から手を離して、一曲弾き終えた彼女に、ヴァイオリンの一人が席を立って近づいてゆく。ポケットからメモとペンを取り出す様子に、おや、と思う間もなく怒気交じりの不機嫌そうな声が一つ。
「のだめ!シュトレーゼマンが打ち合わせ兼ねて昼飯行くって呼んでるぞ!」
一瞬にして呆気にとられて、目を丸くして彼を見れば、少し頬が赤い。大人になったかと思えばまるで少年のままだったり、じつに感情に素直に忙しい青年だ。
「…ワタシ、そんなこと一言も言ってませんけどね。」
「あいつが変なのに寄りつかれる前に、さっさと行きますよ。」
狼狽を隠してくるりと背を向ける彼を、彼女は急ぎ足でステージから降りて小走りに追いかけてやってくる。「待って、先輩。」変わらぬ台詞を吐きながら、ワンピースの裾をふわりと翻して、ふっと一旦立ち止った。
「ミルヒ?」
横髪を揺らして、行きましょ、とニコリと袖を引く彼女の指には銀色の指輪が光っている。はいはい、と笑うと不思議そうに唇を尖らせた。彼らが授けてくれたものは、美しい音だけではなく柔らかく光る日常の幸福だった。
何食べますか?と可愛く頭を悩ます彼女の向こう、彼は扉を開けて待っている。
午後からの彼女とのリハーサルの前、少し早目の時間。ホールの扉が開いて外の光を連れて訪れた二人は珍しい組み合わせ、というわけではないのだけれど。こうして改めてつがいで訪問されると、さて、と冷やかさずにはいられなくなる。
「のだめちゃんの付き添い?心配症な夫だねぇ、」
オケに少し早目の休憩を伝えると、会場に現れた今回のソリストに気づいた団員達がにわかに活気づいた。当の彼女本人は、無邪気にピアノの元へ駆けってゆく。
「そんなんじゃないですよ。弟子が師匠の元を訪ねてるだけじゃないですか。」
相変わらずの素っ気ない返事、けれども何だか穏やかな顔をして言うので、余計にやり込めたくなってしまう。
「ジェラシーですか?」
「はぁ?一体誰に嫉妬?まさかあなたにとか言うんじゃないでしょうね、」
すぐムキになって、ほら、と思ったところへ聞こえてきた彼女のピアノ。確かめるように一音、頷いてから和音。ステージを見れば団員は椅子から離れず彼女の音を待っている。ピアノの音に一気に吸い込まれるように、私たちも言葉を噤む。ホールに軽快な音符だけが飛び跳ねているところへ、彼は少し面倒臭そうな表情を作って言った。
「でも、たまに、分かんなくなる時もありますよ。あいつの才能に嫉妬してんのか恋愛感情か、って。何でオレが、って思いますけど。」
「はは、まだまだ若いね。」
「何とでも。」
さっきよりもうんと穏やかな表情に変わって、不器用ながら嫉妬だとか恋愛感情だとかを認める純朴さを、彼は一体どこで身につけてきたのだろう。ピアノの調子を確かめるには十分すぎるほど楽しんで弾いている彼女を慈悲の視線で抱擁している。
軽やかに鍵盤から手を離して、一曲弾き終えた彼女に、ヴァイオリンの一人が席を立って近づいてゆく。ポケットからメモとペンを取り出す様子に、おや、と思う間もなく怒気交じりの不機嫌そうな声が一つ。
「のだめ!シュトレーゼマンが打ち合わせ兼ねて昼飯行くって呼んでるぞ!」
一瞬にして呆気にとられて、目を丸くして彼を見れば、少し頬が赤い。大人になったかと思えばまるで少年のままだったり、じつに感情に素直に忙しい青年だ。
「…ワタシ、そんなこと一言も言ってませんけどね。」
「あいつが変なのに寄りつかれる前に、さっさと行きますよ。」
狼狽を隠してくるりと背を向ける彼を、彼女は急ぎ足でステージから降りて小走りに追いかけてやってくる。「待って、先輩。」変わらぬ台詞を吐きながら、ワンピースの裾をふわりと翻して、ふっと一旦立ち止った。
「ミルヒ?」
横髪を揺らして、行きましょ、とニコリと袖を引く彼女の指には銀色の指輪が光っている。はいはい、と笑うと不思議そうに唇を尖らせた。彼らが授けてくれたものは、美しい音だけではなく柔らかく光る日常の幸福だった。
何食べますか?と可愛く頭を悩ます彼女の向こう、彼は扉を開けて待っている。
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