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天使と雲の上
オペラ編で千秋が一人で飛行機乗って帰ってたのは少し寂しかったです。
一人で乗れる様になったの?ていう。
逆にロンドンデビューですっ飛んで行ってくれた時は嬉しかったです。
一人で乗れる様になったの?ていう。
逆にロンドンデビューですっ飛んで行ってくれた時は嬉しかったです。
|天使と雲の上
楽譜通りにピアノを弾くこと、昔は大の苦手だったけれども今の彼女には造作ない。勿論自由な解釈で気ままに鍵盤の上で遊ぶことも好きだけれども、五線譜のストーリーを読み解く面白さを彼女は彼から教わった。苦手なトマトも彼がパスタやカチャトゥーラに仕立てれば満面の笑みで舌鼓を打ったし、掃除や洗濯も得意ではないけれど、彼の手伝いは苦ではない。
しかし彼女の苦手は彼との数年で随分と解消されたが、彼の苦手は一向に減るものでもなかった。幾度もの朝の食卓で彼女が納豆を食しても、匂いに眉をしかめるばかりであったし、一人で乗れる様になったのは随分な進歩とはいえ飛行機だって出来うる限り避けたい交通手段だった。
「先輩、大丈夫ですかー? 指先冷たいですねぇ。お水貰います?」
パリから日本への長いフライトももう数時間といったところ。照明は落とされたままの、無理やり夜を作られた機内で彼女が小声で覗き込む様に心配そうな顔をしている。
「いつまで経っても、先輩、飛行機苦手なんですねー。」
うぷぷ、と最後に憎らしい笑い声を足そうと、彼は益々渋面をきつくするばかりだった。
「お前だって、さっき機内食でサラダのトマトだけ残してたじゃねぇか。」
精一杯の反論も彼女には届かず、小さくケラケラと笑ったままだ。
ブランケットを身体目一杯覆って、預けた右半身、右手はすっぽりと彼女の右手に包まれている。肩に寄せた頭、彼の額に頬を寄せる彼女はまるで普段の彼の様だった。キュッと指先を握られた、と思うのと同時に数センチの隙間から光が差し込む。彼女がそっとシェードを上げていた。
「ほら、先輩。」
十センチ足らずに切り取られた世界はオレンジ色と空色の間で目映い光に包まれている。
「天国って、こんなのですかね。」
空の床を覆う雲の絨毯。きらめく光に埋め尽くされた外は間違いなく彼女の言う天国に違いない。それから彼の左肩の落ちたブランケットを掛け直すといつもの癖っ毛もなんだか頼りなくヒョンと跳ねて見える頭をついでに柔らかく撫ぜた。
完璧主義者の彼であるから、納豆は別だとしても飛行機を克服出来るものならそうしたいと思うし、昔に比べればそれなりにマシになっているだろうとも思う。けれども彼女の隣であれば長いフライトでも苦手なままでも構わないとも思ったのは、刹那の安堵と救いに、いきなりの愛おしさを感じて仕方なかったからだ。
「今、雲の上ですよ。」
天使さながらの笑顔で優しく言う彼女に、お願いだから、手を離さないで。と、祈る様に目を瞑った。
楽譜通りにピアノを弾くこと、昔は大の苦手だったけれども今の彼女には造作ない。勿論自由な解釈で気ままに鍵盤の上で遊ぶことも好きだけれども、五線譜のストーリーを読み解く面白さを彼女は彼から教わった。苦手なトマトも彼がパスタやカチャトゥーラに仕立てれば満面の笑みで舌鼓を打ったし、掃除や洗濯も得意ではないけれど、彼の手伝いは苦ではない。
しかし彼女の苦手は彼との数年で随分と解消されたが、彼の苦手は一向に減るものでもなかった。幾度もの朝の食卓で彼女が納豆を食しても、匂いに眉をしかめるばかりであったし、一人で乗れる様になったのは随分な進歩とはいえ飛行機だって出来うる限り避けたい交通手段だった。
「先輩、大丈夫ですかー? 指先冷たいですねぇ。お水貰います?」
パリから日本への長いフライトももう数時間といったところ。照明は落とされたままの、無理やり夜を作られた機内で彼女が小声で覗き込む様に心配そうな顔をしている。
「いつまで経っても、先輩、飛行機苦手なんですねー。」
うぷぷ、と最後に憎らしい笑い声を足そうと、彼は益々渋面をきつくするばかりだった。
「お前だって、さっき機内食でサラダのトマトだけ残してたじゃねぇか。」
精一杯の反論も彼女には届かず、小さくケラケラと笑ったままだ。
ブランケットを身体目一杯覆って、預けた右半身、右手はすっぽりと彼女の右手に包まれている。肩に寄せた頭、彼の額に頬を寄せる彼女はまるで普段の彼の様だった。キュッと指先を握られた、と思うのと同時に数センチの隙間から光が差し込む。彼女がそっとシェードを上げていた。
「ほら、先輩。」
十センチ足らずに切り取られた世界はオレンジ色と空色の間で目映い光に包まれている。
「天国って、こんなのですかね。」
空の床を覆う雲の絨毯。きらめく光に埋め尽くされた外は間違いなく彼女の言う天国に違いない。それから彼の左肩の落ちたブランケットを掛け直すといつもの癖っ毛もなんだか頼りなくヒョンと跳ねて見える頭をついでに柔らかく撫ぜた。
完璧主義者の彼であるから、納豆は別だとしても飛行機を克服出来るものならそうしたいと思うし、昔に比べればそれなりにマシになっているだろうとも思う。けれども彼女の隣であれば長いフライトでも苦手なままでも構わないとも思ったのは、刹那の安堵と救いに、いきなりの愛おしさを感じて仕方なかったからだ。
「今、雲の上ですよ。」
天使さながらの笑顔で優しく言う彼女に、お願いだから、手を離さないで。と、祈る様に目を瞑った。
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