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ハロー・グッバイ
グッバイかグッドバイかはいつも悩むんですよね。

|ハロー・グッバイ

ベッドの上の彼と彼女は、それぞれにテレビと楽譜に夢中だったけれど、珍しく、彼の方が先に楽譜に飽きた様子を見せた。楽譜を胸に、膝を立ててぼんやりと天井を眺めていることに気づき、テレビから視線を外して首を傾げながら、彼女が先輩?と訊ねる。

「例えばさ、」
首を傾げたまま、続く言葉を待つ彼女に視線だけくれる。
「オレがいなくなったらどうする?」
「また長期ツアーですか?」
ムッとして見せながらも笑みを含んで聞き返す。反して彼からは、そうじゃなくて、と優しく笑って返されながらも否定される。

「オレがいなくなったら、どうする?」
「のだめがまた部屋散らかしたの、まだ怒ってるんですか? それとも、ご飯作るの失敗したからですか? あ、昨日は先輩、眠いし疲れてるって言ってたのに、ピアノ見て下さいって言ったこと?」
仕方ないばかりの彼女の発言に、彼は苦笑混じりで、もういいよ。と返す。バツが悪いのか彼女は少しふくれて、ぷい、とテレビの方に向かい直して言葉を続けた。

「先輩がいなくなったら、部屋は散らかしても文句言われないし。ご飯は納豆を好きなだけ食べれますし、それにターニャがいます。ピアノだって、のだめ、自分で頑張ろうと思えば頑張れるんですよ? 先輩がいなくなっても、」

続く言葉は無く、振り返った彼女の双眸に、大きく反射する室内の明かりがキラキラと見える、と彼はぼんやりと思う。

「いなくなっても?」
「平気じゃないです。」
ぽすん、と彼の胸に落ちる音。楽譜が折れる、と彼は笑う。返事代わりに、彼女の鼻水を啜る音。
「どこか行っちゃうんですか?」
「どこにも行かないって。」
腕の中の栗色の髪を一束遊びながら、彼は笑いながら続ける。
「だけど、ほら。オレが居なくなっても、お前の言う通り、部屋が汚くても誰も文句言わないし。メシはターニャが居るし。こっちにも日本にも友達は居るし? ピアノは、まぁ、頑張れ。」

「何でそんなこと言うんですか。」
怒った様に口にする彼女の言葉は涙混じり。むくりと上げた顔からこぼれる涙を親指で拭いながら、ただひとつは、代わりに涙を拭う誰かを想像できるほど、自分は出来てはいない、と彼は思う。

「先輩に会いたくなったら?キスしたくなったら? どうすればいいんですか。」
「そうだな、」
また小さく笑って、ごめん、と一言足した後で静かに丁寧に唇を重ねるのと同時、つけ放したままのテレビはプツリと消された。

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