[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
色とりどりのブルー
少し未来の。
|それはきれいなスカイブルー
テーブルの上には、楽譜。いつもと変わらないそれに加えて、雑然とした資料、ファイル、契約書類。普段は全てが散乱している部屋に住むことすら何らいとわない彼女であったけれど、それらを忌々しそうに恨めしげな顔つきでカップを大事そうに両手で抱えて見ている。
「先輩、もしのだめとの結婚を周囲に反対されたらどうします?」
「は?」
楽譜から顔をあげた彼から思いのほか素っ頓狂な声が転がったのは、好きだの愛してるだのを常としている彼女にしては意外な言葉だったからだ。
「例えばミルヒやヴィエラ先生が「ダメだ」って言ったら?日本の家族が猛反対して、引き離そうとしたら?そんな反対を押し切って、かけ落ちでもしてくれる位、先輩はのだめと結婚したいと思ってくれていますか?のだめのこと、好きでいてくれていますか?」
カップの中はもう熱くもないだろうけれど、ほぅ、と最後はため息を伏せ目がちにミルクティーを冷ますように可愛らしく吐いてみせた。
「…何かあった?」
鉛筆と楽譜をテーブルに預けてカップを手にした彼は素直にそう尋ねる。大抵の悩み事や不安に対して彼女はもっぱら不慣れであるから、不器用な伝え方しか知らない。けれども彼はその唐突な疑問を、いささか毎度のこととでもいうように慣れた手つきで聞いてやった。
「なんかモヤモヤしたものが胸の奥でブスブスいってる、ていうか。のだめは先輩のこと大好きです、なんですけど。それでもなんだか分からない何かがあるんです。のだめにはピアノ、先輩にはオケ。ちゃんと音楽もあって、好きな人と結婚できるのに。やらなきゃいけないことが沢山あるばっかりで。でも嬉しいんです、幸せなんです。だけど、なんか、何かが分かんないんです。…それ、峰君に言ったら笑われるばっかりだし、真澄ちゃんに言ったら怒られるばっかりだし。何なんですかね?のだめのこの気持ち!」
呼吸すら忘れて一息に言う彼女の眉は情けなく八の字を描いている。もう一度ゆっくりとテーブルに目を伏せて、お決まりの尖らせた唇をカップに寄せた。そんな彼女の様子に片目を細めて嘆息混じりに訝しそうな視線を送る。
「…お前マリッジブルーとか言ったらぶっ飛ばすぞ。このオレと結婚できるのに不安要素でもあるわけ?」
「…マリッジブルー?」
きょとん、と彼女は目を瞬かせた。
「…そんなもんじゃないの?」
呆れたように今度はきちんとため息をひとつ吐いて、カップをテーブルに戻した。閉じた楽譜から丁寧にページを辿って開く。「…のだめのくせに。」視線をあげず、そう付け加えると。彼女はテーブルの向こうでキュゥキュゥと奇声を紡いで萎んでいったのが分かった。
それから再度楽譜が閉じられることになったのは、彼女の再びの質問だった。
「先輩は今何色ですか?」
「…は?」
あからさまに怪訝と不機嫌の合わさった顔で彼女を見れば、彼女は至極真顔で尋ねているので簡単に呆気にとられてしまう。
「モーツァルトみたいなピンク!だとは思いませんけど、先輩はブルーにはならないんですか?自分で言うのは悲しいですが、のだめとの結婚なんて昔の先輩には考えられなかったでしょ?先輩も、言わないけどマリッジブルーだったりします?もしかしてブルーどころか、紺色だったり、真っ黒だったりします?」
それは必死な形相に変わる彼女に、やむを得ないといったため息をまたひとつ。それから今度こそ楽譜を開きなおして視線を落とした。彼女は一向に不安げな表情のままだったが、彼は顔も上げることはなく平然としたまま、何色ねぇ、とぽつりと呟いた。
何小節進んだか、楽譜を見つめていても絶えず送られて感じる彼女の視線。顔を向けると視線はたやすくぶつかる。少し、傾いだ首とまだ緩く八の字に作られた眉。もうひとつ彼はため息を付け加えた。
「白とか?」
「ほわー、白。ですか。…でも、」
ちらりと感動してみせたが、すぐに眉根を寄せて腑に落ちないという表情を作ってみせた。
「なんか、安易じゃないですか?結婚だから白?」
何度目のため息か分からない、既に相づちの様なため息の後で、彼は別に、とつまらなさそうに返した。
「お前がブルーなら俺もブルーだし、お前が真っ黒なら俺も真っ黒。ピンクならピンク。それでいいよ。だから俺は白。」
鉛筆を転がして、カップを手にするついでに顔を上げてみれば、ゆるゆると口元を綻ばせ始めた彼女と視線が通う。
「…なんだよ。」
「わかんないです。わかんないけど、のだめ、今ちょっとピンクです。」
へへ、と困った様に笑った彼女につられて彼も“ちょっとピンク”なので少し笑う。
本当は、青の先が澄み切った空だということにもお互いとっくに気づいていた。
テーブルの上には、楽譜。いつもと変わらないそれに加えて、雑然とした資料、ファイル、契約書類。普段は全てが散乱している部屋に住むことすら何らいとわない彼女であったけれど、それらを忌々しそうに恨めしげな顔つきでカップを大事そうに両手で抱えて見ている。
「先輩、もしのだめとの結婚を周囲に反対されたらどうします?」
「は?」
楽譜から顔をあげた彼から思いのほか素っ頓狂な声が転がったのは、好きだの愛してるだのを常としている彼女にしては意外な言葉だったからだ。
「例えばミルヒやヴィエラ先生が「ダメだ」って言ったら?日本の家族が猛反対して、引き離そうとしたら?そんな反対を押し切って、かけ落ちでもしてくれる位、先輩はのだめと結婚したいと思ってくれていますか?のだめのこと、好きでいてくれていますか?」
カップの中はもう熱くもないだろうけれど、ほぅ、と最後はため息を伏せ目がちにミルクティーを冷ますように可愛らしく吐いてみせた。
「…何かあった?」
鉛筆と楽譜をテーブルに預けてカップを手にした彼は素直にそう尋ねる。大抵の悩み事や不安に対して彼女はもっぱら不慣れであるから、不器用な伝え方しか知らない。けれども彼はその唐突な疑問を、いささか毎度のこととでもいうように慣れた手つきで聞いてやった。
「なんかモヤモヤしたものが胸の奥でブスブスいってる、ていうか。のだめは先輩のこと大好きです、なんですけど。それでもなんだか分からない何かがあるんです。のだめにはピアノ、先輩にはオケ。ちゃんと音楽もあって、好きな人と結婚できるのに。やらなきゃいけないことが沢山あるばっかりで。でも嬉しいんです、幸せなんです。だけど、なんか、何かが分かんないんです。…それ、峰君に言ったら笑われるばっかりだし、真澄ちゃんに言ったら怒られるばっかりだし。何なんですかね?のだめのこの気持ち!」
呼吸すら忘れて一息に言う彼女の眉は情けなく八の字を描いている。もう一度ゆっくりとテーブルに目を伏せて、お決まりの尖らせた唇をカップに寄せた。そんな彼女の様子に片目を細めて嘆息混じりに訝しそうな視線を送る。
「…お前マリッジブルーとか言ったらぶっ飛ばすぞ。このオレと結婚できるのに不安要素でもあるわけ?」
「…マリッジブルー?」
きょとん、と彼女は目を瞬かせた。
「…そんなもんじゃないの?」
呆れたように今度はきちんとため息をひとつ吐いて、カップをテーブルに戻した。閉じた楽譜から丁寧にページを辿って開く。「…のだめのくせに。」視線をあげず、そう付け加えると。彼女はテーブルの向こうでキュゥキュゥと奇声を紡いで萎んでいったのが分かった。
それから再度楽譜が閉じられることになったのは、彼女の再びの質問だった。
「先輩は今何色ですか?」
「…は?」
あからさまに怪訝と不機嫌の合わさった顔で彼女を見れば、彼女は至極真顔で尋ねているので簡単に呆気にとられてしまう。
「モーツァルトみたいなピンク!だとは思いませんけど、先輩はブルーにはならないんですか?自分で言うのは悲しいですが、のだめとの結婚なんて昔の先輩には考えられなかったでしょ?先輩も、言わないけどマリッジブルーだったりします?もしかしてブルーどころか、紺色だったり、真っ黒だったりします?」
それは必死な形相に変わる彼女に、やむを得ないといったため息をまたひとつ。それから今度こそ楽譜を開きなおして視線を落とした。彼女は一向に不安げな表情のままだったが、彼は顔も上げることはなく平然としたまま、何色ねぇ、とぽつりと呟いた。
何小節進んだか、楽譜を見つめていても絶えず送られて感じる彼女の視線。顔を向けると視線はたやすくぶつかる。少し、傾いだ首とまだ緩く八の字に作られた眉。もうひとつ彼はため息を付け加えた。
「白とか?」
「ほわー、白。ですか。…でも、」
ちらりと感動してみせたが、すぐに眉根を寄せて腑に落ちないという表情を作ってみせた。
「なんか、安易じゃないですか?結婚だから白?」
何度目のため息か分からない、既に相づちの様なため息の後で、彼は別に、とつまらなさそうに返した。
「お前がブルーなら俺もブルーだし、お前が真っ黒なら俺も真っ黒。ピンクならピンク。それでいいよ。だから俺は白。」
鉛筆を転がして、カップを手にするついでに顔を上げてみれば、ゆるゆると口元を綻ばせ始めた彼女と視線が通う。
「…なんだよ。」
「わかんないです。わかんないけど、のだめ、今ちょっとピンクです。」
へへ、と困った様に笑った彼女につられて彼も“ちょっとピンク”なので少し笑う。
本当は、青の先が澄み切った空だということにもお互いとっくに気づいていた。
PR