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Happy Birthday × Happy Birthday
少し未来の。
|Happy birthday × Happy birthday
二月の風は厳しいほかなく頬や指先といった至る皮膚を刺されるばかりだったので、外から見上げた四角い窓枠の中を彩る灯りの色から想像できる部屋の暖かさや、ドアを開けてほぉっと弛緩する想像通りの柔らかな温度に彼は幸福を無意識に味わっていたのだけれど。さて、テーブルの上にはまさに盆と正月を呼び寄せたような豪勢な食卓が準備されていたところで緩やかな笑みを湛えていた顔は怪訝に眉をしかめることになる。
「先輩、お誕生日おめでとうございまーす!かける2です!」
盛大なクラッカー音が立て続けに二つ。リビングで待ち構えていた彼女はもちろん料理にかからないよう注意を払ったので、彼の顔真正面にクラッカーを向けていた。彼はすかさずあからさまな不機嫌な顔につくりかえたが、相変わらずこちらがどんな表情や反応であろうと彼女はお構いなしに無邪気に笑ったままなもので、彼は脱力混じりにコートを肩から紙くずと一緒に滑り落とした。
「…はぁ、まぁいいや。ありがとう。」
嘆息を含みながらもすんなりと素直に言葉はこぼれた。彼女と何年も真冬を一緒に過ごしているけれど、誕生日なんて当日に祝われたことのほうが少なかったし、ましてテーブルに並べられた料理は申し分なかった。そして中央に置かれた皿の上にはちゃんと、彼女の握り飯があったことに気づいた時には彼の眉間のしわはもうなくなって頬も緩み始めていた。
早く早く、とプレゼントを用意した子供然と急かされ椅子につくと、彼女は得意げにのだめがやります、と彼の手からシャンパンをとって数年前より慣れた手つきでマッシュルームのコルクに手をかけた。鼻歌混じりの無邪気で誇らしげな表情をどこか微笑ましく愛らしいと思ってしまっているのは、彼の中をこの貴重なセレモニーの喜びが満たしているからであったけれど、フルートグラスに注がれたハチミツ色の中の小さな気泡に彼は疑問符を思い出した。
「そういえば、かける2って何?お前のことだから何年かまとめて祝われても不思議じゃないんだけど。このグラスは去年お前がくれたやつだろ。」
彼女はテーブルの脇に立ったまま、シリアルボウルに無造作に盛られたイチゴをひょいとつまんでイチゴ一つ分程のとっておきを含んでいやらしそうに笑った。
「去年の分じゃないですよー。今日は、お誕生日おめでとう、が二つなんです!先輩のお誕生日おめでとう、と。もう一人のお誕生日はまだ先ですけど、今日わかったからおめでとう×2なんですー!おめでとうございまーす!」
まるで他人事のようにつらつらといつもの調子で喋り倒してイチゴをかじってフルートグラスを持ち上げた。彼はというと目をまぁるく象るほどだったが必死に頭を整理させて「かんぱーい!」なんて揚々とキンとグラスを鳴らす彼女の手を取りシャンパンを無意識ながらも奪い取る。
「何するんですか!」
「バカ、」
目は丸いまま表情も変わらなかったが「妊婦が酒飲むな、」と普段のようにしっかりとした口調で続けて、ようやく彼女は呆けたように「そうでした、」と意を解した。
「ホントに?」
口をつけられなかったグラスをテーブルに二つ預けて、彼女の両手を取る。椅子に座った彼が見上げるように彼女の顔を覗き込むと、いつもの口を尖らせたどこか不思議そうな顔。少しだけ気恥ずかしさを見せたのは、彼の方がふっと力が抜けたように笑ってしまったせいかもしれない。
「ホントです、」
彼女がその手をまだ膨らんでもいない腹部にもっていくと、彼は一瞬びくついて、こわごわと意識を手に集中する。まだ胎動なんて何にもないけれど、どこか不思議に指先が熱く感じる。それは確実に全神経に伝わって、目頭へと到達して視界がにじんだ。
空いた右手で彼女がひょんと跳ねた黒髪で遊んでいるけれど、珍しく彼は何も咎めない。それどころか、赤らむ目を見られなくてよかった、なんて思っている。彼女はというと知ってか知らずか、どこまでも一人マリアみたいな柔らかな笑みを満たして「せんぱい、おめでとうございます。」ともう一度穏やかに言った。
「うん、」
かろうじての返事に続くはずだった「おめでとう、」は腹部で震えて「ありがとう」は胸にゆっくりと広がった。
二月の風は厳しいほかなく頬や指先といった至る皮膚を刺されるばかりだったので、外から見上げた四角い窓枠の中を彩る灯りの色から想像できる部屋の暖かさや、ドアを開けてほぉっと弛緩する想像通りの柔らかな温度に彼は幸福を無意識に味わっていたのだけれど。さて、テーブルの上にはまさに盆と正月を呼び寄せたような豪勢な食卓が準備されていたところで緩やかな笑みを湛えていた顔は怪訝に眉をしかめることになる。
「先輩、お誕生日おめでとうございまーす!かける2です!」
盛大なクラッカー音が立て続けに二つ。リビングで待ち構えていた彼女はもちろん料理にかからないよう注意を払ったので、彼の顔真正面にクラッカーを向けていた。彼はすかさずあからさまな不機嫌な顔につくりかえたが、相変わらずこちらがどんな表情や反応であろうと彼女はお構いなしに無邪気に笑ったままなもので、彼は脱力混じりにコートを肩から紙くずと一緒に滑り落とした。
「…はぁ、まぁいいや。ありがとう。」
嘆息を含みながらもすんなりと素直に言葉はこぼれた。彼女と何年も真冬を一緒に過ごしているけれど、誕生日なんて当日に祝われたことのほうが少なかったし、ましてテーブルに並べられた料理は申し分なかった。そして中央に置かれた皿の上にはちゃんと、彼女の握り飯があったことに気づいた時には彼の眉間のしわはもうなくなって頬も緩み始めていた。
早く早く、とプレゼントを用意した子供然と急かされ椅子につくと、彼女は得意げにのだめがやります、と彼の手からシャンパンをとって数年前より慣れた手つきでマッシュルームのコルクに手をかけた。鼻歌混じりの無邪気で誇らしげな表情をどこか微笑ましく愛らしいと思ってしまっているのは、彼の中をこの貴重なセレモニーの喜びが満たしているからであったけれど、フルートグラスに注がれたハチミツ色の中の小さな気泡に彼は疑問符を思い出した。
「そういえば、かける2って何?お前のことだから何年かまとめて祝われても不思議じゃないんだけど。このグラスは去年お前がくれたやつだろ。」
彼女はテーブルの脇に立ったまま、シリアルボウルに無造作に盛られたイチゴをひょいとつまんでイチゴ一つ分程のとっておきを含んでいやらしそうに笑った。
「去年の分じゃないですよー。今日は、お誕生日おめでとう、が二つなんです!先輩のお誕生日おめでとう、と。もう一人のお誕生日はまだ先ですけど、今日わかったからおめでとう×2なんですー!おめでとうございまーす!」
まるで他人事のようにつらつらといつもの調子で喋り倒してイチゴをかじってフルートグラスを持ち上げた。彼はというと目をまぁるく象るほどだったが必死に頭を整理させて「かんぱーい!」なんて揚々とキンとグラスを鳴らす彼女の手を取りシャンパンを無意識ながらも奪い取る。
「何するんですか!」
「バカ、」
目は丸いまま表情も変わらなかったが「妊婦が酒飲むな、」と普段のようにしっかりとした口調で続けて、ようやく彼女は呆けたように「そうでした、」と意を解した。
「ホントに?」
口をつけられなかったグラスをテーブルに二つ預けて、彼女の両手を取る。椅子に座った彼が見上げるように彼女の顔を覗き込むと、いつもの口を尖らせたどこか不思議そうな顔。少しだけ気恥ずかしさを見せたのは、彼の方がふっと力が抜けたように笑ってしまったせいかもしれない。
「ホントです、」
彼女がその手をまだ膨らんでもいない腹部にもっていくと、彼は一瞬びくついて、こわごわと意識を手に集中する。まだ胎動なんて何にもないけれど、どこか不思議に指先が熱く感じる。それは確実に全神経に伝わって、目頭へと到達して視界がにじんだ。
空いた右手で彼女がひょんと跳ねた黒髪で遊んでいるけれど、珍しく彼は何も咎めない。それどころか、赤らむ目を見られなくてよかった、なんて思っている。彼女はというと知ってか知らずか、どこまでも一人マリアみたいな柔らかな笑みを満たして「せんぱい、おめでとうございます。」ともう一度穏やかに言った。
「うん、」
かろうじての返事に続くはずだった「おめでとう、」は腹部で震えて「ありがとう」は胸にゆっくりと広がった。
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